前回のコラム2では、日本独自の東洋思想と西洋思想の違いを解説しました。
今回は、その東洋思想に則ったこれからの経営に必要な7つの法則について紹介していきます。
コラム1から今回のコラムまで読み終わったとき、あなたはこれからの経営に必要なものが見えてくるでしょう。
経営計画を考えるにあたり、その手法には大きく分けて2つあります。
それが「順算経営」と「逆算経営」です。
コラム1からコラム2を通して私たちが提案するのは順算経営。
現在、多くのセミナーや書籍で紹介されているのは、西洋思想的な位置にある逆算経営です。
順算経営とは、逆算経営とは異なるプロセスで経営計画を考えます。
逆算経営のプロセスは、最初にビジョン(目標)を決めます。
そして、そのビジョンにたどり着くための目標をさらに細分化していく方法です。プロ野球選手になりたいというビジョンを持った小学生がいたとします。
そのビジョンを実現するためには、まず高校生の3年間の内に甲子園に出場し、成績を残すことが最短ルートだと考えるでしょう。
さらに、そのためには中学生でもいい成績を出して、高校は野球の強豪校に入るというプロセスが必要になるかもしれません。
ここまで考えれば、小学生である今、ビジョンのために何をすればいいのかが見えてくるでしょう。これが逆算経営です。
では、順算経営とはどのようなものなのでしょうか。
順算経営とは、スタート地点を重視する経営手法です。そのスタート地点とは、もちろん自社や自分自身のこと。
これまで自社が何を積み上げてきたのか、どんな価値を誰に提供してきたのかを徹底的に深掘りしていくことから始めます。
次に、深掘りした内容から自社と他社の違いはどこにあるのかを考えて、これからの経営に落とし込みます。このような経営の手法が順算経営です。
最初にゴールを決めて、そこに到着するまでの道も計画するのが逆算経営。
これまで培ってきた自社の理念や自社の在り方、世の中に提供してきた価値や他社との違いを突き詰めていく経営が、順算経営ということです。
では、なぜこれからは順算の経営が必要なのでしょうか。
一見、逆算経営の方が論理的で成功しやすいように思うでしょう。しかし、その逆算経営が通用しにくくくなっているのが現在の社会情勢なのです。
コラム1「モノが溢れる時代の経営に必要なこと」で少し触れましたが、現代はものが売れにくい時代に突入しています。
逆算経営で順調に経営ができていた昭和・平成の時代は、あらゆるものが足りていなかった時代でした。
そのため、日本の人口や家庭の数から逆算することで、経営の予測が立てやすかったのです。
しかし、現代にはものが溢れ、何を売ればヒットするのか予測することが非常に困難な時代に…。
このように、今まで一般的だった逆算経営が通用しにくくなってしまいました。
この現象が目に見えて分かりやすく現れているのが、映画業界。最近、過去にヒットした映画の続編となる映画の公開が多いと感じる人は多いのではないでしょうか。
これは、現代においてどんな映画を撮ればヒットするかという予測がとても難しくなったことが背景にあります。
その結果、過去に利益を出した実績のある映画、言い換えると収益の予測がしやすい映画の続編を撮影したほうが確実にヒットを狙えるのです。
このことから分かる通り、現代の社会情勢では何が売れるのか予測が困難になっています。
では、このような時代の中、どうやって順算経営を組み立てていけばいいのでしょうか。
そのために必要なことは「世の中のために自分たちにしかできないことは何か」を常に考え行動し続けることです。
そうすることで、ほかとの差別化を図ることができます。その考え方が大切なことは、日本企業に長寿企業が多いことからも見てとれます。
2019年、日本における創業から100年以上経過している企業の数は33,076社で世界1位。
同年2位のアメリカは19,497社と、日本は大きく差をつけています。
日本の長寿企業が持つ特徴は以下の通り。
お客様や地域、従業員とその家族に至るまで、信頼を積み重ねることを第一に考えていることが分かります。
そして、その土台となる思考が「世の中のために自分たちにしかできないことは何か」なのです。
インターネット上や街中で多く見かけるさまざまな広告。これらのマーケティングのテクニックには感心するものがあります。
しかし、テクニックだけになって肝心の中身がなくなってしまうと利益を出すのは最初の一瞬だけ。
テクニックだけではなく、事業や商品の本質的な部分を見定め、それを磨き続けていかなくてはなりません。
今、長く利益を生み出し続けるために必要なことは、順算経営に沿った信頼の積み重ねなのです。
会社経営は経営者一人の力では成り立ちません。会社は従業員とその家族・取引先・お客様によって支えられています。
まず、一番小さなコミュニティは家庭です。仕事のパフォーマンスを維持したり、さらに良くしたりするには家庭が安定していることが大切です。
それは、自分だけではなく従業員も同じ。家庭が安定している=家庭を治めていることであり、国や会社の安定にもつながっています。
従業員自身の家庭が安定していると仕事に対する意欲も変わり、取引先やお客様との関係も安定します。
では、どのようにすると安定するのでしょうか?それは「目の前の人にお尽くしする」ことです。
たとえば、周囲に対しての気配りや約束を守ることなど。ついつい仕事が忙しく、家族との時間が取れずに疎かにしていませんか?
家庭を安定させることで仕事も会社も安定するため、上手く循環させていくことが理想です。
また、自分の家族だけではなく従業員・従業員の家庭・取引先・お客様も大切にすることを忘れてはいけません。
目の前の人にお尽くしする=義理を通すことです。会社に関係しているすべての人にお尽くしすることで、さらに会社が安定します。
それぞれがつながることで、会社の根幹が揺るぎないものになります。そのため、どのような立場であっても「人にお尽くしする」ことを忘れてはいけません。
人を大切にしたり学び続けたりすることでつながり、家庭や会社が安定します。
この考え方はコラム2の「中国大陸で約2500年間続く帝王学も取り入れた経営」内で解説した帝王学にある「五徳本能(仁義礼智信)」のことです。
五徳本能は目の前の人に尽くしたり、筋を通したりすること。コツコツと徳を積むことで一つひとつがつながり、自分に返ってきます。
これは会社経営でも同じです。従業員やその家族・取引先・お客様を大切にすると会社の安定へとつながります。
五徳(仁義礼智信)の経営で得られるメリットは、何といっても会社や家庭が安定することです。人と人とがつながることで基盤が安定します。
五徳(仁義礼智信)の教えを一つひとつ丁寧に行うことで出来上がるのが、揺るぎない基盤。
日本にある「老舗」と呼ばれる会社は、長年に渡り五徳(仁義礼智信)を大切にしています。その結果、何百年と歴史のある会社が現代においても活躍しているのです。
五徳(仁義礼智信)を意識し、目の前のお客様に尽くしていたら、自然とほかのお客様に紹介してもらえるようになります。
紹介してもらえるということは会社の価値も高まり、さらに売上アップにもつながるというプラスの流れを引き寄せることになるのです。
しかし、このプラスの流れを引き寄せるには求める相手に対し、紹介してもらいやすい状態でなければなりません。
いくら良い商品や会社であっても、その会社にしかない独自性がなければ伝えることは難しいでしょう。
たとえば、友人から新しく車を購入する相談されたとしましょう。
自分が前お世話になった車販売の社長さんを紹介したいと思ったとき、その会社の良さも一緒に伝えませんか?
車販売するお店はたくさんあるので、「ここめっちゃ良いから!」だけでは非常に弱いです。
お互い信頼関係ができていれば別かもしれませんが、基本的には購入する気にはならないでしょう。
しかし「ここはセンスが良い!希望をザックリ言うだけでカスタムも理想通りにしてくれるから、よく褒められる!」とその会社にしかできないことを伝えれば、相手も購入したいと思うでしょう。
また、紹介によって得たチャンスや人脈を活かしさらに人格を磨くことで、新たなチャンスや人脈を得ることにつながります。
お客様を紹介してもらえる仕組み作りには、その会社にしかない独自性が必要不可欠。
必ずその会社でしかできないことはあります。社長一人で考えるのではなく、社員も巻き込み全員で会社の良さや強みを見つけ、作り上げていきましょう。
全ての物事は陰と陽でできています。
会社のことだけ一生懸命になったとしても、継続させることは非常に難しいです。
なぜ難しいのか……、それは会社が人で成り立っているからです。社長も人、社員も人、社長や社員を陰で支える家族も人。
家庭も人間関係も会社に関わる全ての人が円滑になり良い関係が築けていければ、自然と仕事もやる気が出てきます。
モノが溢れ、将来を予測することが困難である現代。
状況に応じながら柔軟に物事を進めていく順算経営には、家庭や人間関係が円滑で良い関係を築ける状況を作ることが必要です。
一方、ゴールを決め、そこに到着するまでの道も計画する逆算経営は、人=機能として働き成果が出ればOKという考えでした。
しかし、経営が人間的な感性に寄ってきている今、会社・社長・社員の感性を磨くことで人の気持ちが分かる・気遣いができることはプラスになります。
しかし、自分自身がしっかりできていることが前提です。いくらそうは思っていても、自分自身ができていなければなかなか他人に目を向けることは難しいです。
徹底して感性を磨けば、家庭も円満にすることができます。
会社と同じく家庭も円満にしていきましょう。家庭と会社は別物に見えるかもしれませんが、会社と家庭は切っても切れないもの。
朝、飲み会が続き家のことを蔑ろにしたことを妻から責められ、そのままの状態で会社に出社したときの気分を想像してください。
きっと頭の中は責められたことで頭がいっぱいになり、気持ちも沈んだままになるでしょう。
家庭で起こったマイナスなことは仕事への影響力が非常にあります。さらに、家庭のケアまでしてくれる会社であれば、社員の家庭をも円満にすることができます。
たとえば、社員の奥さんの誕生日にお花を送ったり、家族を呼んで食事会をしたりするのもいいでしょう。
家庭が円満であれば、それがモチベーションの高さとなり、仕事への意欲にもつながります。意外と家庭のことは引きずるものなので、会社も家庭も円満にしましょう。
これまでの流れを改善していくと、会社や個人が持つ根本的な「魅力」が上がります。
これらは目に見えない部分ですが、会社の雰囲気を良くするだけでなく、自分の会社に誇りを持てるようになります。
誇りを持てるようになれば、社長はもちろん、社員も自分たちの会社はどうあるべきかと自然に考えようとするでしょう。
そこで会社や個人の「哲学」ともいえる「理念」を掲げ、組織に浸透させていくことで「在り方」を示すことにつながります。
経営理念は目に見えます。経営理念を明確にすることで、お客様に自社の在り方を示したり、求人の際も考え方の方向性が合う人が自然と集まるようになります。
つまりあなたの会社がどのような考えで経営をしているのか、しっかり相手に伝えることができるのです。
外側だけでなく、内側=社内でも同じことがいえます。
経営理念があることにより、それをベースに社長と社員が対話をしても心の在り方がブレることなく、自信を持って実行することができます。
しっかりした理念があることで、社長も社員も同じ方向を向くことができ、それがお客様への信頼にもつながるのです。
継続して発展していく会社・良い会社であるためには、どのような組織を目指せばよいのでしょうか。
まず大事なことは、従業員一人ひとりが「自分たちの組織を良くしていこう」という意識を持つことです。
従来の組織では、上司や顧客からの要求をそのまま踏襲することを美徳とし、何も考えずに仕事を進めるケースが多くありました。
一方で「なぜこの現状になっているのか」と疑問を持ち、どうすれば課題が解決するか、円滑に進むかを従業員・現場から考えていけば、さまざまなアイデアが生まれます。
一人ひとりが自ら考え、よりよくしていこうとアイデアを出して改善・改革していく組織が、自走型組織です。
自走型組織構築のために必要なのは、ここまでに挙げてきた法則。
目の前の人に尽くす姿勢、従業員やその家族への気遣い。
陰陽を整え、信頼関係を築き、義理を通す姿勢です。
そんな会社・経営者の理念に共感した従業員は「自分たちも相手のため、会社のために尽くそう」という姿勢に変わるでしょう。
その輪の広がりは、社員教育のあり方にもつながっていきます。
社員教育は、実務指導やスキルトレーニングだけではありません。
新人教育では、仕事の姿勢や考え方も伝えていく必要があります。
自走型組織では、社員教育においても自然に会社の理念を伝え浸透させていくため、教育を受けた従業員にも仲間意識や家族意識が培われていきます。
一方で、会社の中ではどうしても仕事のできる人とできない人に分かれてしまうものです。
そんなとき、家族意識の芽生えた組織であれば、先輩や仕事のできる人がお兄さん・お姉さん的な役割を担い、仕事のできない人をサポートする体制が自然に生まれるのです。
また、従業員一人ひとりをよく知っているため、得意分野を活かし特性を考慮した業務分担・配置になることも期待できます。
さらには「昨日より今日、今日より明日へ」とみんなで成長していこうという共通意識が芽生えるのが、自走型組織の最大のメリットといえるでしょう。
ブランディングとは、消費者や顧客に「いい会社」だと認知・承認されると共に、他ではできない付加価値を構築していく企業努力のこと。
ブランディングと人材採用は、一見して関連がないように思った方もいるのではないでしょうか。
会社のブランディングを成功させることは、優れた人材採用にもつながります。
多くの会社は営業や人事、制作など、部門ごとに部署が分かれているのが一般的です。
専門分野に強く、チーム内では仕事が共有されている一方、部署が違えば業務外であることを理由に仕事を断ってしまうケースも珍しくありません。
募集・採用業務に関しても、「人事の担当だから」と気にかけない人も多いでしょう。
ここで、例を挙げてみます。
友人と会食したとき「うちの会社はいい会社なんだ」と話題に挙げる。
「今携わっているのは、とてもいい商品なんだ」という何気ない仕事の話をする。
転職を検討している友人からは応募を検討してもらえる可能性があり、商品が魅力的であれば売り上げや契約につながる場合もあるでしょう。
このように従業員一人ひとりが会社の看板となれば、どの部署に配属されていたとしても、人事や営業の側面を担うことができるのです。
しかし、どんなに「いい会社」「いい商品・サービス」と伝えても、本人に魅力や説得力がなければ相手には伝わらないでしょう。
従業員のブランド化は、一人ひとりがやりがいを持っていきいきと働き、会社のことも自分事として捉えられる人材であるからこそ成立します。
昨今では、会社のためにがむしゃらに働く姿を「社畜」として揶揄される傾向がありますが、このコラムで紹介してきた経営者の皆さんはお気づきでしょう。
まず人に尽くし、陰陽を整える経営理念。それが浸透した従業員は社畜ではなく、ワークライフバランスの取れた企業戦士なのです。
ブランディングが成功した長寿企業。
「いい会社」と認知されている企業。
その多くは、他で真似できない企業風土と共に従業員もブランド化されています。
そして「この会社で、魅力的な人たちの中で働きたい」と希望する求職者が集まる人事採用の仕組みが構築されているのです。
優秀な人材獲得につながるブランディングとは、従業員一人ひとりが会社のブランドであると自覚を持つ企業風土づくりともいえます。
優秀な人材獲得のために、自社のブランディングについても今一度、検討してみてはいかがでしょうか。
本章ではこれからの経営に必要な7つの法則について、どれか1つを達成すればよいのではなく、各項目が相互に作用することで会社が循環していくことを解説してきました。
これからの会社経営は、数値化できない部分・目に見えない「信頼」や「気持ちよく働ける環境」を築き上げていくことも必要といえるでしょう。
昨今はジェンダー平等が叫ばれ、性別を問わずさまざまな業務に携われる機会が増えています。
男性ならではの大胆さやダイナミックな提案、行動力が必要となる場面。
女性ならではの共感性や繊細性、さらには母性が発揮されることで、問題解決が円滑に進む場合もあります。
これからの時代に必要なのは、その人らしさ・強みを理解し、適性を判断していくこと。
それぞれの強みを活かし補い合い掛け合わせながら、関係値を作っていくことでしょう。
もちろん、今までのように誰でもわかる数値を目標に、上を目指していく西洋思想経営も大切です。
これからは、西洋思想経営に加えて目には見えない「信頼」「奉仕」「好環境」を整えていく東洋思想経営を組み合わせることが、さらなる会社の発展につながっていくでしょう。